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Review

 
◆【春期女子の誰もが通過する『千と千尋の借りぐらし:破』


 
 『スウィッチ』の主人公・ウェンディは、幼い頃に母親から殺されかけるという強烈な毒親体験があることを除けば、周囲になじめずトラブルと転校を繰り返し、自分の居場所はここではないと思い悩む、思春期にありがちな中二病をこじらせた17歳の女子高生である。
 
 ただ、彼女のめんどくさいメンタルには事情があった。ウェンディは、実は<トリル>という異族の姫であり、人間の子とすり替えられて育った<チェンジリング>だったのだ。しかし、ここから異世界を舞台にめくるめく大冒険活劇が始まる……とは一筋縄にいかないから、話は面白くなってくる。
 
 せっかく出会えた本当の母親・エローラは、トリルを率いる厳格な女王であり、ウェンディに対して階級社会の貴族に相応しい姫としての振る舞いをネチネチと要求するばかり。ウェンディが密かに恋心を抱いている世話役・護衛役のフィンも、どこかビジネスライクでつれない。
 威圧的な女傑が支配する世界で、イケメンにお世話されて暮らしながら、名前を奪われそうになったり、敵対する同族の襲来を受けたりする物語の構造は、どこか『千と千尋の神隠し』を彷彿とさせる。
 
 また、トリル界の仕組みやしきたりについてろくに事情を説明されないまま、主人公と読者が同じ置いてきぼり感を味合わされる感覚は、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』にも似ている。おまけに、トリルたちの住む共同体は、車でアクセスできるほど人間界と地続き。人間たちに「寄生」してその恩恵を受けることで成り立っている彼らの生活は、ある意味アリエッティよりも借りぐらしだ。
 
 そんな『千と千尋の借りぐらし:破』とも言うべき本作だが、年頃になって急に「無邪気な子供」から「価値ある女」としての振る舞いを強いられ、母親(同性)から風紀の取り締まりを受け、トリルの社交界(男性社会)から品評の目にさらされるというウェンディの苦難は、まんま「思春期の女子がぶち当たる生きづらさ」のアナロジーそのものではないか。
 
 本作は三部作の一作目にあたるそうで、因習と政争が渦巻く閉塞感ただようトリル社会を、この先ウェンディがいかにサバイブしていくのか、ますます目が離せないのである。
 
 

著者名:福田フクスケ
フリーライター・編集者。
webメディア『AM』において「勝手にタレント名鑑」「恋愛ドラマ勝手に深読み入門」「ノマドセックス女子があらわれた!」などの連載を経て、現在は雑誌『GetNavi』(学研)に「魁!!テレビ塾」、webメディア『SOLO』に「福田フクスケの自問自答テレビ」と2本のテレビ評を連載中。
『マイナビニュース』では恋愛ジャンルのブックレビューを担当するほか、Twitterでは主に恋愛論・ジェンダー論に関するつぶやきが多い。
『現代、野蛮人入門』(松尾スズキ・著/角川SSC新書)の編集を手がけるなど、エンタメ・カルチャー全般も守備範囲。

 
 
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  • スウィッチ

    著:アマンダ・ホッキング (著)
      裕木俊一 (翻訳)

    定価 500円(税抜)

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