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社員からの紹介コメント

 
性と個性のせめぎあい


 
 「チョコレートなんて大嫌い! あたしいらない。絶対に食べないわ!」
 6歳の少女の何気ないひと言に母親の表情は一転。瞳には狂気がやどる。
 多くの幼い女の子はチョコレートを与えれば喜ぶ、という予想に反したウェンディの反応はこの母にしてみれば裏切りであった。不満はそのまま「あなたはおかしな子だわ」「あなたはいったいなんなの」果ては「化け物」という言葉に結実する。
 ナイフの切っ先がウェンディに向けられたときも少女は臆することなく「チョコレートは嫌いなの!」と足を踏み鳴らす。
 
 物語では、ウェンディが誰とも打ち解けられず、どこへ行っても居場所のなさを感じるのは彼女の正体が〈トリルの女王の娘〉だからだ、ということになっている。しかし、このような設定を抜きにしても、我が強く従順さのかけらもない彼女は、母親はもちろん教師やクラスメイトたちからも扱いづらい存在だっただろう。
 
 我の強さゆえにウェンディは孤立するが、だからといって自分の意に反して、他人に迎合することはない。それは、他人の目に〈異質〉と映ったとしても、適当に人に合わせて居心地のいい場所を作るより、一人ぼっちでも自分の意志を貫くことのほうが彼女にとって価値あることだからだろう。
 
 それは、母娘の関係においても当てはまる。ウェンディ自身が回想しているように、キムにナイフを向けられたとき、彼女が怯えてさえいれば、その後、彼女が刺されることはなかったのかもしれない。他者の意に沿う反応ができなかったウェンディは、母の殺意という形で半永久的にキムとの関係に終止符を打たざるをえなかった。
 もし、ウェンディがチョコレートケーキやプレゼントのテディベアを喜んで、母親に笑顔を向けていれば……。もしくは、仮に望んだものでなかったとしても母親に「ありがとう」と言うことができれば、家族はもう少し平和なシナリオを歩んだのかもしれない。
 
 けれども、「それって面白いんですか?」と私は言いたい。
 だって、ウェンディの人生でしょ? 人の望むとおりに生きてどうすんの?
 チョコレートケーキに喜ぶウェンディは、かわいげはあるかもしれないけれど、そこに〈ウェンディ自身〉はない。まやかしの母親の愛情を得るくらいなら、自分で幸せを勝ち取ったほうがいい!!
 
 そうそう、忘れてはいけないもう一人の母親がいた。
 ウェンディの血のつながった実の母親にしてトリルの女王、エローラだ。
 キムとウェンディの確執は、ウェンディが実はキムの本当の娘ではないことに端を発しているように物語では描かれる。では、血のつながりのある母娘であれば、つつがなく良好な関係を築けるのかというと、とんでもない。
 やはり、こちらの母親もウェンディを自分の意に沿わせようとやっきになる。母娘対決、第2ラウンド開幕である。
 
 『スウィッチ』に登場する母親は、総じて娘に対する要望が多い、ホントに。
 私は、ブサイクでもゲイでも、どんなに憎まれ口を叩いたって、自分の子供はかわいいものという「母親の絶対的な愛」を信じる昭和の人間なのだが、これはもはや神話なのだろうか?
 
 そんな中、救いのような言葉を見つけた。
 ウェンディのおばで、母親代わりのマギーが昔のアルバムを見ながらウェンディに語りかける場面だ。
 「あなたは意志の強い子だったわね」「あなたはいつも自分の思うとおりにならないと気がすまない子だった。赤ちゃんの頃だってそれは短気だったわ。でも、とってもかわいくて、明るくて楽しい子だったわよ」「あなたはいつだって愛されるのにふさわしい子だったわ」
 マギーは、ウェンディの性格をわかったうえで、ありのままを受け入れ、愛してくれる。母親でないマギーのほうがよっぽど母親らしい愛を注いでくれる。
 マギーがいてくれてウェンディはホントによかったと思う。
 
 だから、フィンもおばのマギーや、兄のマット(彼はかつてウェンデイの命を救った)に愛されて育ったウェンディのことを「彼らはきみを愛していて、きみも本心から彼らに愛を返している。チェンジリングにしてはめずらしいケースだけど、悪いことじゃない。むしろいいことだ。もしかするときみはそのお陰で、長いあいだトリルの指導者に欠けていた思いやりの心を持つようになっているのかもしれない」と評する。
 かつ「エローラの周囲への接し方に疑問を感じている」ウェンディであれば、持ち前の意志の強さを糧にしてエローラとは違う、新しいタイプの女王になれるのでは、と感じていたのかもしれない。
 
 「そんななんでもかんでもママのいうこと聞かないもんねー」を地でいく(いや、この娘の場合、基本、自分の中で違うと思ったら誰のいうことも聞かないだろう)ウェンディであれば、まわりの思惑なんてどこ吹く風で、未熟ながら自らの信じた道を切り拓いていくだろう。
 
 ぶつかってみないとわかりあえない関係・感情はある。
 ウェンディとキム、ウェンディとエローラが今後どのような関係を築いていくのか皆目見当もつかないが、「そんなに悪いことにはならないのでは?」と根拠もなく思う次第。これだけお互いどんぱちやっているのだから、案外腹の中は白くて、いちばん最後にはさっぱりした関係が残るのかも、などという希望的観測をたててみたいと思う。
 
文責・編集部 ライオン丸
 
 

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  • スウィッチ

    著:アマンダ・ホッキング (著)
      裕木俊一 (翻訳)

    定価 500円(税抜)

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