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社員からの紹介コメント

 
女たちよ能動態であれ!! ――恋愛小説としての『スウィッチ』


 
 わたしには幾つかの「悪趣味」がある。
 
 通常、「悪趣味」というのは、趣味が悪い、という意味で使用される言葉である。
 一体どこで売ってんだよそれ!?というようなワケ分かんない柄のシャツを着ている人に対してとか、○○さんがあなたの悪口言ってたわよーとか、わざわざ告げ口して関係亀裂するのを見て喜ぶ人に対してとか、まあそういう用法だ。
 しかし、ここでは、「悪い趣味」――陰気な愉しみ――という意味で、悪趣味という言葉を使いたい。
 結果的に自分の精神衛生や状態を悪くするのが最初から分かりきっているのにわざわざやって、実際に自分の精神衛生や状態を悪くするだけの趣味のことである。
 
 そんなわたしの悪趣味の中の一つが、「絶対に嫌いなことが分かりきっている少女漫画をわざわざ読む」というものだ。
 彼氏いない歴イコール22年間イコール生まれてから現在までプラスアルファ友人の数も片手で数えられる程度、のわたくしは、世にあまねく(ひっそり?)存在するモテない系ブスの淑女の皆様と同様(?)、脳内に蛆もとい花畑の湧いたような少女漫画が大嫌いなのだ。
 しかし、絶対に嫌いなことがわかっていて、わざわざ読み、そしてやはり、「こんなのが流行っている日本社会はクソだ!!」と勝手に鼻息を荒くしているのである。
 
 読まなきゃいいのに。
 
 とはいえ勿論、実際のところは、こうして文句をつけるのが楽しいからやっているのである。
 脳内に蛆もとい花畑の湧いたような漫画やトレンディドラマとは、たとえば、クラスで目立たず友達のいない私OR 30代過ぎで喪女の私 がある日、キラキラ系イケメンに目をつけられて……!?系のものであって、こういうのを読むと、彼氏いない歴イコール22年間イコール生まれてから現在まで、友人の数も片手で数えられる程度プラスアルファ重度のコミュ障で大体どこでも浮くわたしは、
 
 そ・ん・な・わ・け・あ・る・か!!!!
 
 と一発ずつぶん殴りたくなるわけだけれど(誰を?)
 しかし、気に食わないのは、どこかに、わたしの面白さ(素晴らしさ)を実は見てくれる男性(※ただしイケメンに限る)がいて、わたしがわたしらしくいれば(ありののままで~?)、素敵な男性(※ただイケ)がいつかわたしを見出して、引き上げてくれるだろう。
 
 みたいな、モテない乙女のその受動態なドリーム自体、ではない。
 そういう少女漫画やドラマの主人公は、大抵、ツンツンクソ女かカマトトクソ女のどちらかである。いつかどこかにわたしの面白さ~以下略 という願望を具現化したような、素敵なヒーローがちゃんと現れてくれているのに、「あんたなんかにあたしはなびかないんだからね!!」と何故だか必要以上にイケメンを邪険にし、邪険にされたイケメンは、(こ、こんなのはじめてだ……あいつ、おもしれー)とどういうわけか更に主人公に惚れるという筋書きである。(なにが面白いんだ? そんなんで面白がってもらえるならわたしもいくらでもイケメン蹴っ飛ばそうか?)
 あるいはこれは少女漫画というか、ドリーム小説とか、むしろ男性向けのラノベに多いが、「必要以上の過度な鈍感」というパターンもある。いわゆる、肝心な部分での「え、なんだって?」というあれである。せっかく好意を丸出しにしてもらえているのに、いつまでも気付かない風で生殺しにしておくのだ。
 
 すなわち、
 
 自分からは何もしないで、相手が熱烈に好意を寄せてくれて、その相手の好意を時に鈍感や悪意で踏みにじっても、それでも相手は懲りずに愛を囁いて欲しい!!
 
 ってそりゃ都合良すぎだぞ!!!!
 
 更に、もっと言うならば、「素敵で権力のある男性に魅力を見出してもらうことで、その男性の権力のおこぼれにあずかり自分の地位も引き上げられたい」
 みたいな、シンデレラ願望が気に食わんのである。
 例えば、学園ものであれば、スクールカーストがそれで、物語の当初、スクールカースト最底辺だったりすることが多い主人公だが、イケメンに見出されることで、スクールカーストの地位上げがはかられる。
 これも、どの程度価値のある男を捕まえられるかが、女の価値に直結する、みたいな前時代的価値観を引きずっているようで気に食わない。
 
 だから、当初、『スウィッチ』のプロモーションを任された時は、結構、というかだいぶ不安であった。
 (前置きがだいぶ長かったな……)
 スウィッチの冒頭部分のあらすじを大雑把に要約すれば、ハイスクールでは周りに馴染めず、いつも放校や引越しを繰り返している、この世界に居場所がない孤独な主人公の元に、転校生の美青年が現れ、何故かつきまとい、挙句の果てに、「君は実は異世界のプリンセスで、僕は君を迎えに来たんだ」などと告げる、といった筋書きだ。
先述の通り、少女漫画を読んでは、ファッキンカマトトビッチ!! と叫ぶのが趣味の陰気なモテない系ブスたるわたしとしては、(こ、これは、わたしが一番嫌いなやつじゃないかな……)と大変心配になったのである。
 
 しかし、この心配は杞憂に終わった。
 
 そ・ん・な・わ・け・あ・る・か!と誰を殴ることもなく、最後まで楽しく読めた理由として、実は異世界の姫で~という世界観な時点でそもそもそんなわけないから、ということではおそらくなくて、色々考えてみたのだけれど、まず、第一に、「フィンがウェンディをつけまわすのは、それが彼の仕事だから」(しかもウェンディはプリンセスだから最重要職務である)という明確な理由があるから、という説明がなされている点。
 少女漫画やBL漫画のヒーローは、(なんでそこまでこいつに執着する……?)という理由がいまいちよくわからない事があるのだが、その点、フィンは、赤ん坊の頃取り替えられた自分たちの種族を、人間界から引き戻す「トラッカー」という職務についているから、という至極単純かつ明快かつ、むろん、ウェンディにとっては、やきもきする原因となる、身も蓋もない理由が存在する。
 で、更に、フィンは真面目ゆえ、「仕事」以上の距離を縮めそうになってしまえば、さっと引いてしまうし、物語はウェンディの一人称で進んでいるので、読者にとっても、彼が本当は何を考えているのか、よくわからないところが、もどかしいあたりだが、恋愛の醍醐味は、
 
 彼ってば、何考えているのかしら……? あたしのこと好きなの嫌いなの、はっきりしてよ!!
 
 にたぶんあるのだろうから(たぶん)、ロマンス小説としては正解なのである。
 
 更に、二つ目は、「ウェンディはプリンセスだが、プリンセスとしての地位を認められるには、ウェンディ自身の努力が必要な点」だろう。
 まあ、考えてみればそうなのだが、あなたは明日からプリンセスです、と言われたところで、大抵の人は明日からプリンセスにふさわしい振る舞いが出来るわけではない。プリンセスとしての日々を送るためには、そして、国民や周りの貴族らに認められるためには、実は、並々ならぬ努力が必要になってくるわけで、『スウィッチ』は、ただ、プリンセスとして迎に来られ国民や周りにちやほやされる毎日が待っていましためでたしめでたし、で終わらず、その、並々ならぬ努力描写に比較的多く紙面が割かれている。
 そして、何より、プリンセスなのは、ウェンディ自身なのだ。
 素敵な王子さまと結婚した、あるいは、素敵な男性に見初められたことで、彼女の地位が引き上げられるわけでは、ないのである。
 
 最後に、最も重要かつ、私が『スウィッチ』で一番いいなあ、と思うのは、ウェンディが、好きなものは好きだと認められるところだ。
 なんで、あいつのこと……なんて、いつまでもグジグジモヤモヤしないし相手からの好意や自分の感情に気付かない振りもしない、自分は、フィンのことが好きだと、ちゃんと認められる潔さ。
 ダンスの練習をフィンとできるとなれば、心躍ると自分の感情を認められ、彼と一緒にいるだけで幸せだと認められ、そして、フィンの危機には、自ら、行動を起こせる勇気とひたむきさ。
 
 好きなものを好きだと認めるって、特に、相手が素敵であればあるほど、そして、自分に自信がなければないほど、実は難しいのだと思う。
 自分がこんな人を好きになっていいのか自分は分不相応ではないかとか、認めることで、馬鹿にされないかとか、実は、相手はからかっているだけで、それほどでもないのではないかとか、ただ、優しくされたから喜んでいるだけなのを、恋心だとすり替えていいのか、とか、なんとなく、結局は自分が最終的に傷付くのが嫌で、保身に走ってしまうと、好きなものを好きだと認められないことがある、と思う。
 だから、いや、そんなに好きでもないし。
 というのは保身のポーズだ。
 だから、別にわたし(オレ)はそんなに好きでもないんだけど、何故か相手が熱烈にアプローチしてきて、っていう少女漫画とかドラマとかBL漫画が流行り、夢見る。
 
 しかし、いいじゃないか!!
 好きなものは、好き、でいいじゃないか!!
 
 この物語は、6歳の誕生日に母親に刺し殺されそうになる、という衝撃的シーンから始まるのだが、そのきっかけは、ウェンディが、自分の誕生日に用意されたチョコレートケーキを嫌いだと主張したことによる。(むろん、きっかけであって「原因」ではない)
 嫌いなものは嫌いといい、自分が嫌だから嫌で、おかしいと思ったらおかしいと主張する、変にカマトトぶらない『スウィッチ』のウェンディを見ていると、
 好きなものは、好き、でいいじゃないか。
 乙女(いや、乙女とかいう年齢をとうに過ぎた淑女も)たちよ、能動態であれ!!
 
 そんな気になってくるのだ。
 
文責・電子書籍事業課 加藤美咲
 
 

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  • スウィッチ

    著:アマンダ・ホッキング (著)
      裕木俊一 (翻訳)

    定価 500円(税抜)

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